あべんじゃーず
はらはらリレー
「はーはっはっはっはっ!!!」
高らかに笑い声が響く。誇らしげに勝利宣言を響かせるコーの足元には、シャロンが転がっている。
「くっそー…負けたぁ…」
ギルド内で始まった対人戦。ただ単に力試しの目的で開始したはずだった。
実力の拮抗した者同士でやるはずのそれに唐突に乱入してきたコーは力試しなぞ何のその、全力で皆を蹴散らしたのである。コーもげろ。
「これで全勝!」
単なる俺TUEEEEEじゃねぇか。コーもげろ。
「うぅ……」
負けた事が悔しくて、シャロンの目に涙が浮かぶ。
泣く、泣き出すぞ。これは困ったもんだの大問題!!
「…うっ…ぐすっ…」
コーとシャロンの戦いを見ていた取り巻きたちが、やばい、と顔色を変える。
「ぐすっ…ひっく……っ、ままぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
びぇぇ、と小さな子供のように堰を切って泣き出すシャロン。いよいよやばい。皆がそっと距離を取った。
勝利に酔いしれるコーは気付かない。
「はっはっはっ!!オレが最強!」
まさにドヤ顔のコー。その背後に迫る影。逃げろぉぉぉぉぉ!!!
「うちの子泣かしたのはお前かコー!!!」
女王様キターーーー!!!!
弓マスターもパワフルショットもクリティカルショットもかかっている。まさにフルバフ状態。
そんなシャオリーがコーへ向けて弓を引く。
「え、ちょ、子供の問題に親が出てくるとか、ちょ、待っ」
どかん。コーの言い訳を待たずに爆発の矢が炸裂した。もちろんクリティカルヒットである。
爆風が水面を波立てる。ばしゃん、と魚が驚いて逃げた。
「ぬぉぉぉぉぉ!!!!!」
いきなり叫び出したのは、コーもシャロンもシャオリーもそっちのけで釣りをしていたヴォルきょー。
「わしの…わしのレア魚ぁぁ……!!;×;」
何てことだ。朝からずっと釣り糸を垂らして、ようやく魚影が見えたのに。
「おのれ……コー…!!・×・#」
許すまじ、と取り出したのは突き刺しロッド。
「いやオレ被害者ギャヒィン!!!」
チャリン、とクリティカルヒットの音がした。
突き刺しロッドで殴打され、コーの血があたりに飛び散る。
びちゃりと嫌な音を立てて撒き散らされた血は遠くまで飛び散り……。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ猫の原稿ぅぅぅぅぅ!!!!!!」
エネットが作業している机にまで届いた。
血がついてしまっては、原稿は使い物にならない。
何てことだ。見せ場であるこのページは力を入れて描いていたのに。
「コーさんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!」
涙目とともに取り出す範馬、もといハンマー。
恨みを込めて頭めがけて打ち降ろさんと振り上げた。
そんなドタバタ劇が始まる少し前、場所は変わり、魔術鍛冶の作業所。
「よし…やるぞ…」
Nolaはただならぬ緊張感を漂わせていた。
宝石細工の魔術作業台に置いたのは、ゼリングと強MPルーン。
「………頼む!」
ゼリングにルーンを宛がう。どうか、どうか、どうか。願いを込めて作成する。
結果は……
「よっしゃぁぁぁぁぁぁついたぁぁぁぁぁぁ!!!!」
おめでとう!
ゼリングは MPゼリングに
進化した!
これは皆に見せないと。完成したばかりのゼリングを手にNolaはギルドメンバーのいる元へ駆け出す。
「みんな見てくれ!」
Nolaが駆け込んだのはちょうどエネットがコーにハンマーを振り下ろすその時で――
「あ」
何がどうしてそうなったのか、Nolaの手から落ちたゼリングはコーの側に転がり――
「あ」
ぱりん。コーの頭もろともハンマーの下敷きになった。
「お前ぇぇぇぇコーぉぉぉぉぉ!!!!!!」
ひとのMPゼリングに何てことを。リアフレでも許さん。
マシュ・カッティールが怒りの唸りをあげる。
「砕いたのエネットさんのハンmゲフゥ!!!」
もちろんフルバフ、もちろんクリティカル2分の1。
チャリン、といい音がして、コーにマシュ・カッティールが突き刺さる。
頭にマシュ・カッティールを生やしたコーが血みどろで倒れ込む。そこには――
「おいホモシビ」
「ホモじゃない!」
駄犬と玄関マットとホモがいた。そこにコーが倒れ込む。縺れ合う4人。
「うわ……わぁっ!!」
何ということでしょう。倒れ込んだはずみでせかいふとChemが口付けを交わしたではありませんか。ホモォ……
「うげっ、げぇぇぇぇ!!!!」
「「何するんだコー!!」」
揃った声と動作で同時に殴りつける。玄関マットと駄犬の揃った拳はコーの頬を綺麗に打ち抜く。
チャリン、と音はしなかったがクリティカルヒットである。
殴り飛ばされ地面に倒れ込む。幸いにも今度は何も巻き込まなかった。
「コーさん、大丈夫ですか?」
ボロボロのコーに優しい声が降ってくる。
血やら何やらにまみれた顔を上げると、そこにはコーを覗き込むシナモンロール。見えた、白!!
「助けてシナモンさん!!」
助けを求める、がしかしシナモンロールは苦笑しているばかり。
「待てコー!!娘の仇ぃぃぃぃぃ!!」
「レア魚の恨みぃぃぃぃ!!・×・#」
「猫の原稿ぅぅぅぅぅ!!!」
「俺のMPゼリングの仇!!」
「「「何させるんだこの野郎、待て、こらぁぁぁぁぁぁ!!」」」
どたん、ばたん、どかん、チャリンッチャリンッチャリンッ、ずどん、めきっ、スッカラカーン、ごきっ、ぶちゅっ
色々な音と様々な怒声とひとつの悲鳴がして――
「なんですかこの状況wwww」
ギルドマスターのジョバンニがやって来る頃には、人間ひとり分の生ゴミが出来上がっていた。
おまけ。
「大丈夫か、ほら、ヒーリングのおまじないしてやるよ」
「ぅ…がぼさん…!!
さすが、優しい…!!」
「おーい、みんな、コーが立ち直ったぞー!!また殴れー!!」
「待てぇぇぇぇぇぇい!!!!!」