道端に捨てたアイテムは何処に行くと思う?
そう、民兵が拾ってゴミ箱へ、だ。ゴミ箱の中身は定期的に捨てられるから、街はいつでもクリーンだ。
……じゃあ、闘技場で解放したまま放置された魂たちは、どうなるだろうか。
他の冒険者たちが倒してくれるまでそのままか? 答えはNOだ。それも民兵が片付けてくれるのさ。

そう、民兵はとっても綺麗好きなんだ。とても、な。
その潔癖さときたら、不要なものが存在することは許さないといった雰囲気さ。

……何でこんな話をするのかって? まぁ、最後まで話を聞けよ。

ある女がいたのさ。そいつはパンダワだった。
そのパンダワには、魂を分けたクラの女がいた。
そいつはパンダワの親友だった。何処に行くにも一緒だったのさ。
でもそのクラは冒険者でありながら、家庭を持ち、エカフリップの娘を産んだ。
冒険者であり母であり二足の草鞋で大変さ。夫はある日ふらりと何処かへ行ったきり、現れもしない。
俺は家庭なんて持ったことねぇから予想でしかないが…シングルマザーとして日々粉骨砕身さ。
娘を育てつつ、自分の冒険も。ギルドの奴らからの頼まれ事もこなすし、クエストだって。休みの日なんてあったのかねぇ?
にも関わらず、クラはきちんと信仰を守り神への供物を忘れなかった。
アマクナの神たちは敬虔なクラを祝福した。何処に行こうとも、神の加護があるように、と取り計らった。

でもな、パンダワは神を一切崇めなかった。彼女にとって信仰するものは酒だけだった。
パンダワは神に供物を捧げなかった。当然、神はパンダワを祝福しなかった。
祝福を受けた存在と、受けなかった存在と。差があるのは当たり前だ。その違いが格差を生んだ。
それからさ。クラはパンダワと一緒にいることはなくなった。

クラは今でも冒険に出ているさ。神の加護を受けながら、自由に、気ままに。
娘も一人前になって、ようやく独り立ちして。母娘ともども、ギルドの古参と中堅さ。立派になったもんだよ。
この前だって、賞金首をひとりでとっ捕まえたらしいぜ。死闘だったらしいけどな。

一方、祝福されなかったパンダワは悲惨なものさ。
不信者は外に出られない。神を信仰している者たちから石を投げられるからさ。
パンダワがかろうじて行けるのは、「冒険者なら誰であろうとも平等に」のインカルナムと、「すべてにおいて中立」を掲げるアストゥルーブの街。それとその周辺だけさ。
そんなもんだから、ひたすらにパンダワは引きこもった。いない存在として振る舞った。まるで物のように。
者でなく物として存在するなら、そのように。実際パンダワへの認識は物だったのさ。
引きこもった冒険者は、要らない物。そう、不要な存在だったんだ。彼女は要らない。要らない物。不要、不必要。

不要は排除すべきだ。そう思わないか?
使わないものがあったって、どうしようもない。あるだけ邪魔だ。
街を巡回する民兵は、宿の部屋に踏み入った。



さぁ、要らない物 を ゴミ箱に。



……パンダワがどうなったのかなんて、俺が知ることじゃねぇさ。